ふと、いいともなど始めからなかったのではないか、と。
タモリがグラサンを取る事なく、いいともが終了してまだ間もないが、エイプリルフールである。
ダウンタウンととんねるずの共演で熱狂しているようすだが、自分は断然ダウンタウンと爆笑問題の方がレアだと思う。が、それはまた別の機会に。
赤塚不二夫の葬儀で読んだ弔辞が白紙だった件が、特に記憶に新しと思うが、すごい嘘と言うのはどこか本音で、より真実である。
マジシャンもそうかもしれない。
だがそれら全てが「タネ」が前提なのに対して、タモリはいつ嘘をついているのかわからないし、全部嘘かも知れないし、全部本当かも知れないと思わせる、どっちに転んでも「タモリ」らしいと言わせしめる独特のグラサンから醸し出すムードがあり、その得体の知れなさが、かっこよさにまでなっている。
タモリは嘘と本音のハイブリットマシーンなのだ。
いいともすら、そもそも嘘だったのではないかと思わせる。
そんなタモリに憧れて、自分もさまざまな嘘をつき、失敗してきた。
昔、同居人に
「スーパーの寿司が半額になっているぞ!」
と、嘘の電話をして、スーパーまで走らせたことがある。
ところが、実際に同居人がスーパーに行ってみると寿司は半額になっており、嬉しそうにお礼を言われるという失敗で終わった。
別の日、再びリベンジとばかりに、宗教のアンケートに答えて同居人の名前と連絡先を書いておいた。
しばらく、彼の電話に見慣れない番号がかかってくる事になるのだが、よくよく考えると僕が嘘をついた相手は変な宗教団体に対してであり、彼には別に嘘をついているわけないことに気がつく。
違う。これじゃない。
どうしても彼に嘘をつきたい、彼を驚かせたいという気持ちがますます積もる中、嘘はどんどん大きくなる。
しまいには、外出中の彼に電話で
「おい!お前の部屋だけに強盗が入ったぞ!」
と、嘘をついた。
ついでに、あわてて帰ってきた彼を驚かせようと、彼の部屋の押し入れの中から飛び出す事にした。
今思うと、その時点でコンセプトがブレているのだが、当時の自分はまだ若く、フリルとスパンコールの絶妙さがおしゃれの全てだと思い込む程の世間知らずだったから、無理はない。
突然飛び出した自分に、「わっ」と驚き尻餅をつく同居人を想像したら、おかしくっておかしくって押し入れの中で笑いをこらえるのに必死だったのが懐かしい。
と、そのとき物音がした。
帰ってきたのだろうと思い、そっと押し入れを開け部屋の様子をうかがうと、ほっかむりをした黒髭の怪しい男が彼の部屋を物色していた。
泥棒である。
参照している「泥棒マニュアル」がいささか古すぎるかなりの<オールドタイプ>ではあるが、このままだとまた、嘘が嘘でなくなってしまう。
泥棒はこちらの<ズレた心配>を他所に、タンスの中身を引っ張りだしている。
その物色の仕方の乱雑さ、くっきりと付いた真っ黒い足跡、相当年季の入ったオールドタイプだ。
仕方なく趣旨を変え、そのオールドマンを捕まえる事にした。
ただ、泥棒を捕まえるのに必ず必要なのが、わら縄である。
それがなければ話にならないのだが、幸いにも押し入れの中にあったので、その縄をしっかりと握りしめ、そーっと押し入れを出て、泥棒が夢中で物色しているところに背後から近づいた。
今だ!と思い、一気にわら縄で締め上げ
「年貢の納め時だな、Mr.オールドマン」
とかっこよく決め台詞が決まったところで、突然、彼は笑い出した。
「何がおかしい?」
「ははは、オールドマンか。なるほど。だが、泥棒だったらニューマンの方がしっくりくるんじゃないのかい?」
「ニューマン?」
「わからないか?『ゲット・ア・チャンス』で泥棒を演じていたのは?」
「ゲット・ア・チャンス……あ!ポール・ニューマンだな!」
「はははご名答」
「そして、すぐに映画に置換えて世の中を斜め切りするお前はもしかして…同居人か!」
「ははは、このメイク、苦労したぜ」
一杯食わされたのは自分の方だった。
同居人こそよりタモリだったのだ。
けれどもタモリへの道を諦めたわけではない。
今日こそは同居人をだまして、「いいとも」と言わせてやろうと思う。
その前にグラサンを新調でもするかな。