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さておかれる冗談

脚本家でイラストレーターのシーズン野田が綴る「活字ラジオ」。たまに映画を酷評し気を紛らわす悪趣味を披露してます。http://nigaoolong.com/index.html

酷評シネマ『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

映画 今週のお題

今週のお題特別編「嬉しかった言葉」
 

 

ゴッホゴッホと咳をする、フィンセント

 

という難解な駄洒落でもって、芸術的視野の広さを見せつける格好となったシーズン野田でございます。

 

しばらく、おつきあいを。

 

え〜まぁ、お題にそって言えば、どんな人間でも生きてりゃ、嬉しかった言葉をかけられるなんてことは、一度や二度はあるもんですな。

 まぁアッシほどになりますと、数多くの女性方を抱くなんてことが多いわけでございますが、そのなかで必ず言われる、「手が何本あるの?」というスーパーテクへの賞賛なんかは嬉しいもんではありますがね。「あれ、ここどこ?」なんて、記憶がなくなる女性なんかもいたりして、実に男冥利に尽きるってなもんではございますが、どの女も大差ないってなもんで、そんなことも次第に飽きてくる。

 まぁなんのひねりもなく言うと、自分が創ったもんに「おもしろい」と本気で言ってもらうことが一番嬉しいですね。とにかく駄でも糞でも何でもいいから世間様にお見せして顔色を伺うってことをやってますからねぇ。ちょっと褒められたりすると、まぁ、後3日は生きてみようかな、なんて気分になれるってなもんで、、

 

「ご隠居!ご隠居!」

「なんでぃクマ、忙しい奴だな」

「いやね、誰にもでも自己愛なんてのは多かれ少なかれあるもんですがね、実はそれが一番自分の足かせになっていたりするもんでね。思考の癖ってもんがどうしたって染み付いてるもんだから、落ち込む事も喜ぶ事も悩む事もいつだって一緒なわけでして、その不自由さってのが長回しによって、、」

「ちょっとまて、何の話だ」

「ああ、いや、『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を観て来たんで」

「ん?」

「いや映画ですよ。『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を見て来たんですがね」

「…どっちをみたんだ?バードマンなのか、それとも、そのなんだ、ムチでぶたれて…」

「無知がもたらす予期せぬ奇跡」

「ああ、そうか。それでどっちを見たってだ」

「いやだなぁ、ご隠居。あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)ってのは副題ですよ。サブタイトルってやつですな」

「サブだか、クマだか、ハチだかしらんが、ずいぶん長いタイトルだな」

「長いのはタイトルだけじゃないんですよ。撮影技法も長回しでしてね、ワンシーンがまぁ長いわけです。さっき言ったその内向きの不自由さってのが、その撮り方にも現れていたりしてね。これ役者さんたちもそうとう苦労したんじゃないかな」

「お前は人の苦労を心配してる場合か」

「いや、とにかく凄いんですって。主人公のリーガンは若いときはバードマンを演じた映画俳優として有名だったんですがね、それ以来20年間鳴かず飛ばずで生きて来た。けどね、ここにきてもう一度再起したい、褒められたい、ってなことで、舞台で一旗揚げようってなこととこから話は始まるわけなんです。冒頭からいきなり空中に浮いて座禅してるシーンでもって、いきなり心をつかまれましたよ。あ、この超能力があるってのがミソでね、モノとか遠隔操作で動かせたりするんですが実は、、」

「なんでぇ、ファンタジーか。ファンタジーとうどんは江戸っ子の食うもんじゃねーってなもんだ」

「違うんですよ。アッシがおもうにね、リーガンには自分は特別だって気持ちがずっとあってね、多分それが強いってことがその超能力で表現されてると思うんですよね。バードマンの能力なんでしょうかね。「お前はすごい」っていう、自分が演じたバードマン声が脳内で聞こえてくるんです。端から見るとまるで独り言で会話をしていて頭のおかしいやつなんですが」

「落語みたいなもんか?」

「まぁ言ってみれば落語なんですかね。で、まぁかつてのバードマンの呪いにかかっちまってると。。けれども、これって誰しもが多かれ少なかれかかってる呪いなんじゃねーかって思うんでげすね」

「アタシは鶏肉大好きだけれども、そんな鳥の呪いにはかけられてないよ」

「違いますよ。例えばご隠居にかけられてるのは<自分は物知りである>というイメージの呪いですよ」

「ほう。じゃあなにかい、<クマは馬鹿である>っていう呪いにかけられているから、お前さんは馬鹿をやってるっていうのかい」

「そうですよ。馬鹿がアッシに与えられた役割ですからね」

「自分が馬鹿なのを役割のせいにするんじゃないよ、たちが悪いね」

「多かれ少なかれ多少はそういう部分もありますよ。これこそ脳みその癖だったりするんじゃないかって思うわけです。でね、やっぱり今いろんな自分を演じなければならない時代じゃないですか。職場だったり、SNSだったり、表現者としての自分だったり。その牢獄にリーガンも閉じ込められているんですね。親であり、人気スターであり、過去の人であり、映画人であり、舞台人であるっていう。そんなかでも有名人であり、ちやほやされた自分ってのが忘れられないんですね。どうしても奮起したい。けれどね、娘に言われちまうんです『パパは芸術のためにやってるんじゃない 有名人になるためにやってる』って。これはね、誰もがささる言葉なんじゃないかって思ってね」

「どうささるんで」

「みんな何かになりたがってるんじゃねーかって。気軽に発信できる今の世においてはね、自分が特別なんだと勘違いする人も多いんじゃないかと思うんですね。より自分が何者でもない事実への恐怖みたいなものが沸いて出てるんじゃないかって。他人と自分は違うんだっていう、漠然とした自意識っていうか、そこにみんな無自覚だから虚を突かれた感じがしてね。まぁこの辺りは、朝井 リョウの小説『何者』なんかが触れてますがね」

「まぁ、謙虚さと奥ゆかしさみたいなのがないやつが多いよな」

「多いなって、あんたもそうだろご隠居」

「アタシは違いますよ」

「みんな自分は違うって思ってんだ。この映画はそうは思わせないつくりなんですよね。さっきもいった長回しの撮影がね、やっぱリーガンと自分をまるで投影するような感覚にさせるんです。リーガンを追い続けるわけですからね。ずっと自分の中の何かを突きつけられているっていうかね。これはお前の話なんだって。お前の話しだし、皆の話だって。その触れ幅が大胆なんですわ。牢獄の中で色んな自分が戦うようなね。。観てたらすごい疲れましたよ。」

「お前の話を聞いてるこっちが疲れたよ。」

「ご隠居はどうしたら、この牢獄から逃れられるかわかりますか?」

「当たり前だろ。お前とは了見が違うんだ。牢獄から逃れるためは悪い事しなければいいんだ。悪い事をしたら牢獄に入るんだからな」

「あ、本当ですか。アッシが思うに、やっぱ自己愛を捨てるってことじゃねーかと思うんですよね。視点を他者に向けるっていうかね。そのためにはどうすればいいかっていうとね、やっぱり新しい事に挑戦するってことなんじゃないかって思うんです。リーガンはこうでなければならない、こうありたい自分と対峙して、そこからどうにか自由になりたくて、映画ではなく初めて舞台の世界に食い込んだ。そこで待ってたのは様々な勝手の違いと、商業ベースの映画界への偏見だった。今までのやり方が通用しないし、プレビュー公演では問題が起りまくり。で、リーガンはとてつもないプレッシャーを抱えて悩むんです。俺やっぱり映画向きだなって。舞台むじーなって。もう全然自由になれない」

「いいことを教えてやろう。悩むんなら占い師に聞くのが一番だ」

「あ、本当ですか」

「<あ、本当ですか>ってのは、どうでもいいときに使う言葉だな」

「聞いて。でね、やがて、リーガンの許容を超えて手一杯になっちまって、楽屋もめちゃめちゃで、周囲も凄い心配するんですが、徐々に解放に向かって行くんです。まぁこれはネタバレなんですがね、、」

「もったいぶるんじゃありませんよ」

「ちょっとした行き違いでパンツ一丁でブロードウェイを歩くっていうシーンがあるんですけど、まぁこれが名シーンなんですがね、それを象徴するように、そうやって、目をつむっていた、こだわっていた、今までディタッチメントしていた部分が、新しい事に挑戦する事ではからずも表出して、一回丸裸状態になる。それはもうただの人。肉のかたまり。自分が抱えていたもんなんて、ゲス同然になっちまう。実際に、SNSでその歩く姿が投稿され、メディアにも取り上げられ話題になるという皮肉。自分が抱えてる他者から観た自分のイメージは、なんてもろいもんなんだろうって。有名になることなんて不毛じゃねーかって」

「不毛はいやだが、羽毛は好きだな。布団にすれば温かい」

「馬鹿な事いってんじゃねーよ。で、最後は、舞台の上でまぁあんまりネタバレになっちまうが、自己愛を殺して、他者への眼差しへとシフトしていくんですが、そこで本当に自由になる。羽ばたくんです。もう一人の自分であるバードマンに別れを告げて、自分の力で羽ばたくんです。だから映画を観終わった時にもの凄い解放感があったんですね」

 「アタシには主役の笑顔の汚さがマルコビッチに似てるなぁくらいしか思わなかったな」

「え?ご隠居、観たんですかい?」

「バカ言うな。お前と一緒に観ただろうが」

「ああ、そうでした。アッシとご隠居は元を辿れば一つの体ですからね」

「しっかしまぁ、お前の言ってる映画の話は、あいかわらず馬鹿でよくわからんな。誰にも伝わらんよ」

「ご隠居、そんなこといわねーで下さいよ。バードマンみたいに別れを告げずに、うち等はなかよくやりやしょうや」

「まぁな。一人じゃ落語はできないからな」

 

 

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